
週明け22日の日経平均株価は、一時先週末比1,000円以上値上がりして初めて72,000円台を付けました。スイスで始まったアメリカとイランの戦闘終結に向けた協議の不透明感が増しているにもかかわらず、株価の上昇が続いています。日経平均株価は4月初めからのわずか2ヵ月半余りの間に額にして2万円以上、率にして約40%の大幅な上昇となっています。日銀が先週政策金利を0.25%引き上げたにもかかわらず、株価の上昇傾向は変わっていません。以下、連載の第3回を掲載します。
今の日本経済が新しいタイプのバブルなのかどうかの議論に戻ろう。現在の依然として非常に低い金利と巨額の財政支出は前回バブルの時と同じだ。
1985年9月の「プラザ合意」に端を発した円高不況を乗り切るため、日銀は何度も公定歩合を引き下げ、1988年には2.5%をつけた。黒田日銀総裁の異次元融緩和の時の「マイナス金利」には及ばないが、当時としては過去最低の公定歩合の水準だった。
低金利と並んでバブルに欠かせないもう一つの“燃料”が財政支出だ。既述のように日銀が国債発行の大部分を引き受けるようになった結果、政府は財源をほとんど気にすることなく、積極的な財政支出が可能になった。
さらに2020年初めから感染が急拡大した新型コロナの対策費用として巨額の財政資金が投入され、今でも日本経済の深いところで大量のお金が眠っている。
前回同様、今回も金利と財政の両面からバブルを育てるのに必要十分な条件がそろっている。そして異次元緩和はその名の通り、前回バブルを上回る「異次元」の金融緩和をつくり出していた。
ならば前回と今回の“バブル(あるいはバブルもどき)”は全く同じなのか。実は大きな違いがある。前回は日本経済全体がバブル一色に染まったが、今回はそうなっていない。
前回バブルの時は、多くの個人株主が株取引で少なからぬ値上がり益を得た。不動産売買でも普通のサラリーマンがマンションなどの売買で多額の利益を手にしていた。
自分が住んでいたマンションを売れば、新しいマンションの頭金におつりが来るくらいのキャピタルゲインを得られた。主婦の井戸端会議では「今、自宅を売ればどれだけ高く売れるのか」というキャピタルゲインの話で持ち切りだったという。
夫の収入も増え、新しい車や家電を買ったり、家族で旅行に行ったりすることができた。ほとんどの日本国民がバブルを輝かしい日本経済の未来として受け止めていた。前回バブルは国民のみんながバブル経済に酔った「みんなのバブル」だったのだ。
しかし、今回は「みんなのバブル」にはなっていない。確かに株や不動産を多く持つ富裕層は前回同様、少なからぬバブルの恩恵にあずかっている。しかし、資産を持たない「普通の人々」はバブルに踊ろうにも踊ることができない。
それどころか多くの普通の日本人にとって賃金は大して上がらないのに、新築マンションの価格は大幅に上昇し、月々の家賃も値上がりするなど踏んだり蹴ったりの状態だ。
前回1980年代半ばのバブルが日本国民全体に及ぶ「みんなのバブル」だったとしたら、今回は日本全体には広がらず、ひとり一人の資産状況などで影響に差が出る「パーシャル(部分的)なバブル」、すなわち「わたしのバブル」と言えるだろう。
その最大の理由は前回バブル崩壊後、30年に及ぶ実質ゼロ成長と、世界最速で進む少子高齢化などを憂い、国民の大多数が日本経済のバラ色の未来ストーリーを描けないでいるからだ。
「わたしのバブル」の恩恵を受けるのは少しでも株や不動産などの資産を持つ層に限られる。日銀の異次元緩和で株や不動産などの資産価格は大きく上昇している。日本経済全体としては明るい材料が増えているものの、いまだに30年以上に及ぶ“ゼロ成長”から完全には抜け出せずにいる。
多くの国民は金融緩和の十分な恩恵にあずかれないでいる。むしろ大多数の人にとって、長引く景気低迷による低い賃金アップ率(最近は少しましになっているが)や最近の物価上昇などで、取り巻く経済環境は厳しさを増している。
この結果、前回の「みんなのバブル」のような景気全般の過熱が抑えられており、日銀はつい最近まで異次元緩和を続けることができたとも言える。それが株や不動産などの資産価格のさらなる上昇を招くという皮肉な循環につながっているのである。(続く)
