「世界同時熱波」が農作物の「世界同時不作」を招く恐れ

世界の主要穀倉地帯を襲う「同時熱波」がトウモロコシなど農産物の「同時不作」を招く

全国のクマ被害が深刻さを増しているが、背景にあるのは最近の異常な気温の高さがクマの好む木の実を一段と不作にしていることが一因らしい。この気温の高さの影響はクマ問題にとどまらない。このまま行けば2026年は世界の主要な穀倉地帯が同時に熱波に襲われる「世界同時熱波」の年になるとの観測が増えている。

同時熱波は干ばつを伴い、主要な穀倉地帯を「同時不作」に陥らせかねない。同時不作は穀物の収穫量が大幅に落ち込まなくても、価格の高騰などを招く恐れがある。世界の食料事情がさらに厳しいものになるのは避けられず、中でも食料自給率の低い日本はより大きな影響を被る可能性がある。

日本では今年から摂氏40度以上になると「酷暑日」と呼ぶことになったが、早くも連日のように「酷暑日」のニュースが全国を駆け巡る。一方、欧州では一足早く摂氏40度以上を記録する高温地域が相次いでいる。

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世界で相次ぐ40度超えの異常気温

スペインの内陸部では40度~44度に達する予報や観測が出ているほか、フランスの地中海沿岸や内陸部では40度前後、ワイン醸造で有名なボルドーでは連日の高温で大規模森林火災が発生し、多くの住民に避難勧告が出された。

イタリアやギリシャでも40度以上の気温が相次いでいる。アメリカでは平年より5度から8度も気温の高い地域が目立つようになった。特に南西部ネバダ州のラスベガスでは42度から44度を記録したほか、カリフォルニア州の内陸部では7月末から8月上旬にかけて43度から45度に達するとの予報が出ているという。

これまでも熱波に襲われることはあった。しかし、欧州が熱波に襲われて暑い年には、アメリカが平年並みの気温になるなど、地域間で気候がある程度独立していた。

アメリカ、欧州、アジアの主要な穀倉地帯がほぼ同時に熱波にさらされることはなかったという。穀物生産もアメリカが熱波の影響で減収になっても、欧州は平年並みの気温で穀物生産も例年の水準を確保できることが多かった。

一部の穀倉地帯が熱波でやられても、熱波の影響を受けない他の地域の在庫を取り崩すことなどで何とかやり繰りできていた。ところが2022年以降、主要な穀物生産地域の多くが同時に熱波と干ばつに見舞われようになり、その結果、農作物の収量が減り、在庫水準も低下する場面がみられるようになったという。

ロンドンに本部を置くNPO組織のECIU(エネルギー・気候情報ユニット)は、COCERAL(欧州穀物・油糧種子貿易協会)の作況予測などをもとに、今年の熱波により欧州の穀物生産は約900万トン減少し、損失額は約20億~21億ユーロ(日本円で3,400億~3,600億円)になると試算している。特にトウモロコシの影響が深刻で、2007年以来の低水準になる見込みだ。

アメリカで熱波の最も大きな影響を受けているのは、中西部のコーンベルト地帯である。USDA(米農務省)は7月、「中西部を通過する高気圧(ヒートドーム)がトウモロコシと大豆の生育に影響を及ぼす可能性がある」と注意喚起した。

ロシアでは南部が高温と乾燥に見舞われたほか、世界的な小麦の生産国のウクライナではロシアとの戦争の影響に加えて、高温と乾燥に悩まされている。中国では華北、華中、長江流域を中心に高温が続いており、水稲やトウモロコシ、綿花、大豆などへの影響が懸念されているという。

今年は2000年以降、最も深刻な熱波の影響?

2022年には欧州、米国など複数の穀倉地帯が同時に熱波に見舞われ、不作になったが、2026年は欧州、北米、ロシア、中国、豪州などより広い地域が熱波の影響を受けている。今年の熱波は少なくとも2000年以降、最も広い範囲の穀倉地帯に影響を与えている可能性が指摘される。

体温を超える37度以上の気温は人間にとって危険な温度だ。気温が体温未満ならば体の熱は外に放出されるが、体温を超える気温になれば熱は体外に放出されず、体内にこもることになる。最悪の場合、体温が上昇し、熱中症などを起こし、命の問題にもなりかねない。

同様に異常に高い気温は穀物を含むほぼすべての農作物に悪影響を与える。花の開花後は受粉を妨げかねず、実ができた後は成熟を遅らせ、実が小さくなったりする被害が出やすくなる。酷い場合には作物自体が枯死してしまうこともあるだろう。

今回の世界的な熱波の原因は、①地球温暖化で世界の「気温の土台」が高くなっている②近年の研究によれば、北半球を西から東に流れる偏西風が大きく蛇行して「ロスビー波」が発達し、広い範囲に同時に高い気温を運ぶようになった可能性がある③強い高気圧がドーム(ふた)のように広い範囲を覆い、熱い空気を閉じ込める「ヒートドーム現象」が起きているーなどの原因が考えられる。

世界同時熱波と同時不作がすぐに世界の食料事情を危機的な状況に陥らせるわけではない。だが、今後も今のような状況が続けば、間違いなく影響は深刻さを増すだろう。

収量落ちずとも同時不作で世界は深刻な供給不足に

特に最近の研究では、農作物の平均収量がそれほど落ちず、横ばい圏内であっても、主要な穀倉地帯で同時に不作になると、世界市場は深刻な供給不足や価格高騰に陥りかねないという考えが主流になりつつあるという。

小麦やトウモロコシ、大豆などの主要穀物の生産が同時に減少すると、世界市場の供給余力が急速に低下し、食料価格の大幅な上昇を招きかねないのである。

食糧自給率の低い日本に深刻な影響及ぼす恐れも

日本の食料自給率はカロリーベースで38%(2024年度)にとどまり、極めて低い水準だ。それだけに日本にとって同時熱波と同時不作の影響はより深刻なものにならざるを得ない。

昨年のコメ価格の急騰が招いたてん末は記憶に新しいところだろう。同様なこと、あるいはそれ以上のことがコメ以外の農産物にも広がれば、国民生活に大きな影響が出るのは避けられない。

中東やウクライナ、台湾周辺など世界的に有事のリスクが高まる中で、「食料」を自国の安全保証と絡める国が増えていると考えられる。食料を巡る様々なリスクに備えるため、コメにとどまらない多様な農作物の備蓄強化や、輸入先の一層の多様化、さらに国家レベルでの抜本的な「食料安全保障政策」の構築が欠かせないだろう。

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この記事を書いた人

元全国紙記者。ワシントン支局時代の2001年9月11日、「同時多発テロ」に遭遇する。その後、アフガニスタン、イラクと続くアメリカのがむしゃらな戦争に今に至る「アメリカのダウントレンドの始まり」を感じた。

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