【最終回】日本経済は「新型バブル」に突入していないか~「わたしのバブル」が生む「普通の人」の格差

都心では大型の再開発事業が相次ぐ

もう一つ黒田前日銀総裁の「異次元金融緩和」に関連して、忘れてならないのは「普通の人」の間の格差を拡大させたことだ。

大金持ちではないものの、株や不動産などの資産を多少は持つ「普通の人」と、株も不動産も持たない「普通の人」の間の格差拡大が止まらない。

つまり職場が一緒だったり、近所に住んでいたり、子供が同じ学校に通っていたりする「普通の人」同士の格差が広がったのである。

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異次緩和による株高と不動産の値上がりが「普通の人」の格差を拡大

日銀は異次元金融緩和の一環として様々な、世界的に見ても極めて異例な緩和策を相次いで実施した。短期金利をマイナス0.1%程度にするマイナス金利や、通常は中央銀行が市場調節の対象としない長期金利を「0%程度」に抑制する「イールドカーブ・コントロール(YCC)」なども導入。

異次元緩和の結果、2025年3月末の日銀による長期国債の保有残高は約574兆2000億円に達した。日本の実質GDP(国内総生産)を上回る規模であり、発行済み長期国債全体の50%超を日銀が保有していた時もある。

さらに日銀は金融市場に大量の流動性を流し込んだだけでなく、もっと直接的な“株価対策”も実施した。2010年からは日銀によるETF(上場投資信託)の購入が始まった。

日銀の保有するETFの残高は2026年1月末には37兆1800億円まで膨れ上がった。2023年4月に黒田総裁から植田和男総裁にかわって以降、日銀は異次元緩和の修正に乗り出している。

ETFについては今後、毎年3,300億円のペースで保有するETFを売却する方針だ。株価に過大なマイナスの影響を与えないようにするためだが、このペースだとETFの残高がゼロになるのはなんと100年以上も先のことになる。

もちろん日銀は株を持っている人々のために異次元緩和を実施してきたわけではない。前回バブル崩壊後、30年以上にわたって「実質ゼロ成長」に陥っている日本経済を回復させるために試行錯誤を重ねてきたと言える。

仮に、黒田氏が日銀総裁に就任する当時の約1万2,300円の株価と、1ドル=94円と100円を切る円高・ドル安水準が続いていたら、日本経済はかなり苦しい状況に置かれていたのは間違いない。

ここ数年の賃金引き上げの動きもなかっただろうし、企業の従来に比べて積極的な新規求人も望むべくはなかったはずだ。

ただ、そうであっても結果的に株を持っている人にとって、日銀の異次元緩和は強力な“援護射撃”となり、安心して株を買い増す環境を整えたと言える。

こうした日銀の援護射撃の効果もあって、株価は10年余りで約1万円から約7万円へと7倍に急上昇した。不動産価格の上昇も日銀の異次元緩和が結果的に後押ししたと言えるだろう。

スーパーリッチな人のように大量の株や不動産を持っていないものの、親からの遺産相続などで多少の株や不動産を持っている「普通の人」は少なくない。

同じ職場で働き、ほとんど同じような生活を送っていると思っていた同僚が、実は異次元緩和のおかげで億単位の株や不動産の含み益を持っていた、なんて話は珍しくなくなりつつある。

金融所得には源泉分離課税が適用され、税負担は20%にとどまる

しかも株式の売却益(キャピタルゲイン)や配当、銀行預金の利子などの金融所得の課税に対しては源泉分離課税が適用される。

所得税は所得の額に応じて税率が累進的に上がる仕組みだが、源泉分離課税は金融所得あるいは金融以外の所得を合算した所得の総額に関わらず、一律20%の税金だけを払えば良い。

分かりやすく説明すれば、仮に異次元緩和前の10年余り前に1万円だった株を今売却すれば約6万円の利益になる。しかし、収めるべき税金は12,000円にとどまり、残りの48,000円は儲けということになる。

格差拡大を助長しかねない金融所得については、世界的に課税強化の議論が強まっている。OECD(経済協力開発機構)の報告書によれば、加盟国の間で株式の売買益であるキャピタルゲイン課税の税率を引き上げる方向での見直し議論が広まりつつあるという。

日本でも岸田文雄元首相や石破茂前首相は首相就任前には金融所得課税の強化に言及していたが、総理になると具体的な動きはぱったりと止まった。

それだけ富裕者にはメリットの大きい税制であり、金融所得の課税強化は政治的に難しいテーマということだろう。

しかし、日本を含め、世界中で国を支える重要な柱である中産階級への深刻な影響を考えれば、株も不動産も持たない「普通の中産階級」を壊しかねない状況を放置していても良いのか、と疑問視する声も少なくない。

「わたしのバブル」破裂すれば、資産持たない「普通の人」にダブルの負の影響

今の日本経済が「わたしのバブル(部分的なバブル)」であるとすれば、バブルが破裂した時、株や不動産を持たない「普通の人」にも深刻なダメージを間違いなく与える。

日銀の異次元緩和を背景にした資産価格上昇の恩恵を全く受けず、バブル破裂の時の災厄だけを引き受けることになる。

今年2月の衆院選挙で、歴史的な大量議席を獲得した自民党の高市早苗政権は、食品にかかる消費税の2年間の課税停止を進めようと躍起になっているが、その前にまず「わたしのバブル」の対策と、「普通の人」の間の格差拡大を食い止めるための政策の方が優先度が高いのではないだろうか。

(終わり)

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この記事を書いた人

元全国紙記者。ワシントン支局時代の2001年9月11日、「同時多発テロ」に遭遇する。その後、アフガニスタン、イラクと続くアメリカのがむしゃらな戦争に今に至る「アメリカのダウントレンドの始まり」を感じた。

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