日本経済は「新型バブル」に突入していないか【第4回】~「わたしのバブル」が「みんなのバブル」になる条件?

都心では大型の再開発事業が相次ぐ

世界的な長期金利の上昇が止まらない。米欧の長期金利は先月28日、2008年のリーマンショック前後以来の水準まで軒並み上昇した。中東情勢を背景にした原油高に加えて、各国の財政拡張に対する懸念も金利を押し上げる要因になっている。日本でも長期金利(10年物国債利回り)は上昇傾向を続けており、週明け5日には一時3.110%と、先週1日に付けた約30年ぶりの高水準である3.110%と同じ水準になった。

目次

超大型再開発事業のラッシュに死角はないか?

さて本題に戻り、現在の日本経済の警戒すべき点をもう一点指摘しておきたい。それは東京や地方の主要都市で超大型の再開発事業が目立つことだ。

いくつか主要な事例を見てみよう。代表格が東京駅前で現在進められている超高層ビルを中核施設とした超大型再開発事業だ。総事業費は約3,000億円に達し、2028年度の完成を目指している。

このほか虎ノ門や新宿、渋谷、神宮周辺などでも大型プロジェクトが目白押しだ。少し高いビルから都心の中心部を眺めれば、建設中の超高層ビルやマンションがいかに多いか実感できる。

大型の再開発事業のコストが一件当たり平均1,000億円ぐらいだとすると、10カ所あればそれだけで事業総額は1兆円に達する。

仮に全国で100カ所あれば10兆円という巨大な規模になる。しかも建設費はうなぎ登りに上昇している。今は前回バブルのように日本中が不動産ブームで沸き返る状況ではないが、相次ぐ超大型再開発に本当に死角はないのか。

バブルの理論的な支柱の一つになったとされる“伝説のリポート”がある。1985年5月に国土庁(現在の国交省)が公表した「首都改造計画」である。

過密化する東京の首都機能を周辺都市に分散し、多核型に変えよう。リポートはそんな内容だった。「説得力が必要だ」。国土庁の担当者はある試算を掲載した。

「東京のオフィスは2000年までに合計5千ヘクタール、超高層ビルにして250棟分必要になる」―。このレポートが“お墨付き”となり、超高層ビルの建設ラッシュはさらに勢いづくのだった。

「金融上の記憶というものは、せいぜいのところ20年しか続かない」(J.K.ガルブレイス)

バブル論の大家、ジョン・ガルブレイスは著書の中でこう語っている。「すなわち、実際問題としては、金融上の記憶というものは、せいぜいのところ20年しか続かないと想定すべきだ、ということである。或る大きな災厄の記憶が消え、前回の狂気が何らか装いを変えて再来し、それが金融に関心を持つ人の心をとらえるに至るというまでには通常20年を要する。」(ジョン・K・ガルブレイス著、鈴木哲太郎訳「〔新版〕バブルの物語–人々はなぜ「熱狂」を繰り返すのか」ダイヤモンド社、2008年)と。

「今の日本経済はかつてのバブルとは異なる。株も不動産もバブルではない」という声が政府や企業、市井の人々の間で少なくない。

前回バブル崩壊から30年以上、日本人は血の出るようなコストを払って学んだはずのバブルの教訓を忘れつつあるのだろうか。

本当に「わたしのバブル」が、前回のような「みんなのバブル」に発展する可能性はないのか。

結論的に言えば、国民全体が日本経済の明るい未来を描くことができない以上、すべての人が前回のようにバブルに踊らされる可能性は小さいと言える。

ここ数年の春闘では大企業を中心に久しぶりの高い賃上げが相次いだが、今後も持続的な賃上げが続き、30年以上続いたゼロ成長から完全に抜け出せるかどうかは不透明だ。

「わたしのバブル」が「みんなのバブル」に変わる4つの条件

しかし、それでも「みんなのバブル」になる危険性はゼロではない。「みんなのバブル」に発展しかねないいくつかの条件を考えてみる。

①多くの国民が信じられる日本経済の将来を楽観できるバラ色のストーリーが生まれる。

②600兆円を超える規模に達した企業の内部留保が設備投資などの形で本格的に動き出す。

③2026年6月末で約2,500兆円に膨れた個人金融資産が消費や投資に本格的に回り始める。

④労働者の賃金が自律的かつ継続的な上昇サイクルに転じ、個人消費が本格 的に回復する-の4つである。

日銀の選択肢は極めて限られたものになる

言い換えると日本経済の「失われた30年」からの脱却が確実になる時、皮肉にも「わたしのバブル」が「みんなのバブル」に変わる可能性が出てくるのだ。

今でも異次元金融緩和の残滓である巨額の資金が金融市場に滞留している。株式市場や不動産市場は見方によってはすでにバブルの前段症状とも言える様相を呈している。

一方、依然として日本経済の「失われた30年」からの脱却にはっきりとした道筋ついたわけではない。仮に急速な利上げで株価や不動産価格が急落し、景気に深刻な悪影響が出た場合、日銀はどうするのか。もはや異次元緩和を発動するわけにはいかない。

日銀にとって金融政策の選択肢は極めて限られたものになろうとしている。すなわち、もしその時点で最善の政策を実行できたとしても、結果は予想を大きく上回る厳しいものになる可能性がある、と考えられる。(続く)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

元全国紙記者。ワシントン支局時代の2001年9月11日、「同時多発テロ」に遭遇する。その後、アフガニスタン、イラクと続くアメリカのがむしゃらな戦争に今に至る「アメリカのダウントレンドの始まり」を感じた。

目次