
世界的に国債の発行金利を押し上げる最大の要因になりかねないのが軍備増強の動きだ。国際情勢を厳しいものにしているのは、ロシアのウクライナ侵略や中国の台湾周辺での挑発的な行動にとどまらない。むしろ最近は自由主義陣営の盟主であるアメリカの軍事行動が目立つ。わずか2カ月足らずの間にイランとベネズエラを相次いで攻撃、2人の外国指導者を武力で排除力でし、キューバへの軍事的な脅しやグリーンランドを強制的に買収するかのような発言をするトランプ大統領。
一方、欧州は安全保障面でアメリカをどこまで頼りにできるか迷い始めている。英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)の「ミリタリーバランス」によれば、2025年の世界の軍事費の総額は名目ベースで前年比約7%増の約2兆6,000億ドル(約400兆円)と過去最高を更新。欧州の軍事費は同21%増の5,600億ドルに膨れ上がった。中でもドイツの軍事費は26%増の1,070億ドルと目立って増加している。
日本は2023年から2027年までの5年間で総額約43兆円にのぼる防衛力整備計画を策定ずみだ。26年度予算では約9兆円の防衛費は計上し、さらに27年度には防衛費を対GDP(国内総生産)比で2%に引き上げることを内外に表明している。世界的な緊張が簡単に収まるとは思えない。当面、各国の国防予算は高水準で推移し、世界中で財源としての国債発行が膨らむ可能性が高い。
日銀の国債保有、異次元緩和の期間中に460兆円も増える
日本の国債を取り巻く環境を考えてみよう。まず最も大きく変わったのは黒田前日銀総裁が始めた異次元金融緩和が終了したことだ。2013年に日銀総裁に就任した黒田氏は異次元金融緩和を始めた。日銀の国債保有残高は異次元緩和の前には約130兆円だったが、翌2013年には200兆円にも膨れ上がった。黒田総裁が退任し、異次元緩和を終えた2023年のピーク時には590兆円に達していた。
異次元緩和の約10年間に日銀の国債保有残高は460兆円も増えたことになる。460兆円という規模は日本のGDPにほぼ匹敵する。日銀が年間の国債発行額の半分を引き受けることもあった。日銀は異次元緩和の下で10年間、毎年約50兆円という巨額の国債を引き受けてきたことになる。
しかも日銀は長期金利(10年物の国債利回り)をイールドカーブ・コントロール(YCC)という市場調節で「0%近傍」に抑えてきた。つまり、国債をいくら発行しても金利はゼロ%にとどまるわけで、「国債は事実上、出し放題だった」という。
2023年には黒田総裁にかわって植田和男総裁が就任、新総裁の下で異次元緩和の修正が進められている。国債を発行する政府にとって天国のような環境はもはや存在しない。
ただ、新自由主義に幕が引かれたことで「小さな政府」という思想が後退し、国債発行のハードルが下がり、発行しやすくなったと言えよう。この新しい環境はどの国にとってもハードルが下がったことを意味し、国債発行は世界的に増える可能性がある。
折しも、厳しさを増す国際情勢の下、自国民の命を守るための国防支出という異論の出にくい国債発行の“大義名分”もある。さらにディスインフレの時代が終わり、「普通の物価上昇」に戻ったと思ったら、今度はアメリカのイラン攻撃で石油価格が上昇し、長引けばインフレと景気後退が併存する「スタグフレーション」にもなりかねない。
日本経済の回復が始まり、30年超に及ぶ「実質ゼロ成長」に終止符が打たれるかもしれず、景気の本格回復は物価の強い押し上げ材料になる。いずれにしても高市政権の「責任ある積極財政」を取り巻く環境は、安倍政権の時に比べて格段に厳しくなっているのは間違いない。
高市政権が目指すべきは、国民が真に必要としている政策を絞り込み、限られた時間と資金を最大限有効に使いながら、同時にマーケットを納得させつつ、政策の確実な実現を目指すことである。2月の衆院選で自民党が勝ち取った「絶対多数の与党」という強力なアドバンテージはそのためにこそ使うべきだ。「責任ある積極財政」という呪文のような言葉を唱えるだけで、すべての課題が魔法のように解決することはもはやないのである。
