
24日にトランプ米大統領と会談した中国の習近平主席は、日米同盟に「小さな亀裂」を刻むことに成功した。台湾統一を急ぐ中国にとって、日米同盟は最大の障害とも言える。
これまで何度も日米間に楔(くさび)を打ち込もうとしたが、その度に失敗してきた。だが、今回はトランプ大統領が中国のナラティブ(物語)に同調したことで、小さいが確かな亀裂を日米間に走らせることになった。
亀裂はすぐに修復されるのか、それとも「蟻の一穴」になるのか。日米同盟はこれまでになかった試練の時を迎えようとしている。
米中両首脳は会談に先立ち、ホワイトハウスで演説した。トランプ大統領は中国を「第二次世界大戦時の同盟国」と発言。この後、習主席は「第二次世界大戦中、中米両国は肩を並べてファシズムの侵略に立ち向かった」と強調した。
「血と火の中で築かれた…」という表現は、北朝鮮に対する「血で結ばれた友誼(友情)…」に似る
さらに習氏は首脳会談後の晩餐会でも「血と火の中で築かれたこのような友情はきっと世代を超えて受け継がれていくだろう」と語った。
この「血と火の中で築かれた…」という表現は、中国が朝鮮戦争を共に戦った北朝鮮との特別な関係を表す「血で結ばれた友誼(友情)…」という表現に似ている。
推測だが、習氏は対日戦争が米中を米朝のような特別な関係にしたと言いたかったのかもしれない。
第二次世界大戦の連合国が戦勝記念日などに、日独伊などの枢軸国と戦った歴史に言及するのはこれまでにもあった。例えば、2010年4月、当時のオバマ米大統領とロシアのメドべージェフ大統領が、エルベ川での米ソ両軍の合流65周年の記念式典で共同声明を発表した。
その中で「ファシズムから欧州を開放するために共に戦った人々」と述べたほか、 米ソ関係については「戦火を共にした兄弟的な関係」と表現している。
トランプ発言は中国の対日宣伝のナラティブに同調か
ただ、それでも今回の米中首脳会談での発言とは異なる点がある。それは中国が高市早苗首相の台湾有事の発言以降、「新型軍国主義が台頭」などと一種の反日キャンペーンを強めている中での米大統領の発言だからだ。
少なくとも外部、あるいは日本から見る限り、トランプ氏が中国の反日のナラティブに同調したかのようにみえる。
しかも首脳会談の2日前に日米首脳会談が開かれ、高市首相が今回の米中会談のような結果にならないよう米側に“釘”をさしていたにもかかわらずである。
確認できる範囲内では、米ロ首脳会談などの場で米側がドイツを念頭に今回のような発言をしたことはなかった。
米中首脳会談の発言、特にトランプ氏の言葉は日本にとって予想外の出来事であり、日本のメディアはそろってこの問題を大きく取り上げた。
韓国と台湾メディア、日本の懸念伝える
欧州のメディアでこの問題に詳しく触れた報道は少なかったようだが、韓国と台湾のメディアは「日本の懸念」などとして詳しい記事を掲載している。
例えば、韓国SBSテレビは9月25日、「日本は、トランプ氏が第二次世界大戦の日本との戦いで、米中同盟を呼んだことを警戒している」と報じている。
さらに韓国の一部の報道機関は日本の新聞や通信社の記事を紹介した上で、トランプ発言は結果的に中国の対日宣伝を補強し、日米関係に悪影響を及ぼすのではないかという懸念があることを伝えている。
さらに台湾の中央通信社(CNA)は25日、「米中首脳会談、第二次大戦の米中同盟の友情に言及 日本メディア、中国の対日宣伝を強化する恐れ」という見出しを付けた記事を配信している。
一方、欧州の報道機関は、米中という2大国が中心になって世界の秩序が形成されることに強い警戒感を示した。ただ、米中両首脳の第二次大戦時の同盟に関する発言については、一部のメディアが発言内容を報道しているものの、日本側の反応を含めた深掘りの論評は見当たらないようだ
アメリカの有力な世論調査会社の「ピュー・リサーチ・センター」が6月に36カ国、約42,000人を対象に実施した世論調査の結果によれば、日本国内での「米国に対する好意的評価」は、前年比5ポイント低下して50%となった。
さらに「トランプ氏を信頼していない」との答えは同13ポイントと大幅に上昇して74%になったことなどを明らかにしている。
アメリカはEU(欧州共同体)やイギリス、カナダ、メキシコなどとの間でぎくしゃくした関係が続いていたが、日本との間では相対的に良好な関係が続いていたと言える。
今回のトランプ発言は、中国が国連の場を世界中で一種の反日キャンペーンを展開していることを考えると、習主席の強い働きかけがあったのではないかとの見方もある。
日米の亀裂広がればアジア・太平洋の安全保障に影響も
アメリカがなぜ中国の対日宣伝に同調したかのような発言をしたのかはよくわからないが、少なくとも日本側見て今回のトランプ発言が日米関係に「小さな亀裂」を走らせたのは間違いないだろう。
その意味で米中首脳会談における習氏の外交的な勝利と言えよう。この亀裂が今後、修復されて元に戻るのか、それとも広がっていくのかを予測するのは現時点では難しい。
しかし、仮に日米間の亀裂が広がるようならば、台湾統一の最大とも言える障害が確実に消え去ることになる。さらに米国が少し前までは重視していたアジア・太平洋地域の安全保障にとって、無視することのできない「亀裂」にもなりかねないのである。
