SNS世代が衆院選の自民大勝もたらす 初の「SSS選挙」~もろさと不安定さも 日本の政治構造の変化促す

① 2026年2月の衆院選挙と前回2024年10月の衆院選の世代別投票率(総務省、小選挙区、188投票区の抽出調査)

今年2月の衆院選は自民党の歴史的な大勝に終わったが、 総務省が3月に発表した資料(「よくわかる投票率」)によれば、この勝利をもたらしたのはSNS世代の若者層だったと言える。昨年7月の参院選に続き、10代から30代のSNS世代の投票率が軒並み上昇しており、この若者世代の多くの票が高市支持に向かったとみられる。

「SNS世代」の特徴的な投票行動は、単一のテーマで支持・不支持を決める「Single-issue」選挙であり、選挙区で一人だけ当選する「小選挙区(Single-member district)制」と相まって、自民党の圧勝をもたらした格好だ。今回の衆院選はこれら3つの要素の頭文字をとった初の「SSS選挙」だったと言える。「SSS選挙」は移ろいやすく、政治を不安定にしかねない面もある。日本の政治と民主主義の構造変化が始まったと考えられる。

衆院選の投票日の2月8日は全国的に雪あるいは氷雨の天気で、投票率はかなり落ちるのではないかと心配された。しかし、ふたをあけてみれば56.26%と前回2024年10月の衆院選挙(53.85%、天気は曇り)を2.41%上回った。総務省の「よくわかる投票率」によれば、前回に比べた投票率の変化は10代(18歳、19歳)が4.02%、20代前半(20歳~24歳)は3.63%、20代後半(25歳~29歳)は5.20%、30代前半(同)が5.06%、30代後半が5.39%のそれぞれ比較的大きな上昇幅となった。特に18歳の投票率は51.47%となり、18歳以上に選挙権が認められた16年以降で最高となった。

一方、50代後半から60代前半は2%台、60代後半は1%台、70代以上の投票率は前回比で横ばいか下回っている。単純に比較はできないが、今回衆院選の全体の投票率は昨年7月の参院選(58.51%)をやや下回っている。

今回の衆院選は全国的な悪天候にもかかわらず、SNS世代である10代から30代の若者層の投票率が全体を押し上げた格好だ。実は、同様のことが昨年7月の参院選でも起きている。この時の全体の投票率は2022年7月の前回参院選を6.46%上回った。中でも10代~30代の若者層の投票率はいずれも約10~15%アップとほぼ2ケタの大幅上昇だった。50代以降の中高年齢層の投票率は依然として若者層よりかなり高いものの、衆院選、参院選ともに中高年の投票率に大きな変化はみられない。SNS世代の若者層が日本の政治を動かし始めたと言えるだろう。

目次

昨年参院選の10代~30代の投票率、前回比約10%以上の大幅アップ

2024年の参院選の投票率

② 2025年7月の参院選と前回2022年7月の参院選の世代別投票率

この3年間に日本の選挙は大きな変化を見せ始めた。まず2024年はSNSが選挙に本格的な影響を与え始めた「SNS選挙元年」だった。翌2025年はSNS世代の若者層が初めて国政選挙を大きく動かした「SNS世代選挙の元年」。そして今年2月の衆院選は、SNS世代が選挙に大きな影響を与えることが偶然ではなく、構造的な変化であることを鮮明にしたと言える。

SNS世代の若者層の投票行動にはいくつかの特徴がある。代表的なものは単一のテーマで支持する政党や政治家を決める「Single-issue」選挙の傾向が強いことだ。50代以上の中高年層の場合、政党あるいは政治家を支持するかどうかを決める時には政治、経済、外交など幅広い分野を考えてから投票することが多い。

若者が選挙を動かし始めた

しかし、若者はその時々の一つのテーマに絞って投票するかしないかを決めると言われる。例えば、外国人問題で厳しい姿勢をとることが必要と考える若者は、外国人に寛容な態度をとる政党や政治家に対して、仮に彼らが経済や外交分野で望ましい政策を打ち出していても、支持しない傾向が強いようだ。

さらに若者が情報を集める手段は主にSNSである。SNSはアルゴリズムによって本人が好む情報しか集まらない閉鎖的な情報空間をつくりやすい。今の若者は新聞もテレビもほとんど見ない。ただ、人間は一人で全てを経験をすることはできない。マスメディアは自分と異なる第三者の経験や意見の共有を可能にする。例えば、年末のテレビのニュースで凍えながら路上で過ごす親子の姿が流れたとする。それを見た人は何か手を差し伸べたいと思い、選挙では社会福祉の予算増額を訴える政党に投票するかもしれない。もし、マスメディアに触れることがなければ、他人の痛みや悩みに接することはなかっただろう。

「どうせ投票しても何も変わらない」と棄権していた若者たちが、25年10月の参院選で「自分たちが日本の政治を変えられる」ことを知った。そして今年の衆院選では大雪や氷雨にもかかわらず一票を投じようと多くの若者が投票所に向かった。若者層の投票率はこれまで低かったため、限界的な上昇余地は中高年齢に比べて依然として大きく、今後の選挙でも少なからぬインパクトを与える可能性がある。

SNS、Single-issue、Single-member districtの頭文字をとった「SSS選挙」は、厳しい言い方をすれば、政治、経済、外交など国や社会が抱える多くの課題を多角的な視点から熟慮した上で、政党や政治家を選択するというプロセスを省略しがちである。それはSNSのアルゴリズムが次から次へと運ぶ短く、扇情的な文章を読んでの刹那的な「人気投票」を若い有権者に迫る。そして政党や政治家は大衆受けのする「ポピュリズム」でそれに応えようとする。

全体を俯瞰的に見渡すことの少ない若者にとって、「左派」や「右派」という視点は初めから存在しないようなものだ。ましてや「中道」は何をか言わんや、である。立憲民主と公明が一緒になった新党の「中道改革連合」は、名前からして若者には理解できなかったのではないか。

若者はSNS、中高年は伝統メディアで情報収集~同じ事象でも異なる姿見る

世代別にどのようなメディアから情報を得ているかについてもう少し詳しく調べてみよう。NHKが前回参院選前の25年3月~5月にかけて実施した「投票行動とメディア 世論調査」(18歳以上の3,600人対象)によれば、若者世代では「政治ニュースに接触するメディア」(複数回答、上位5項目)として、SNSや動画共有サービスなどの「ネット系メディア」をあげる人が多かった。

一方、50代以降ではNHK、民放テレビ、新聞(電子版含まず)などのいわゆる「伝統メディア」が上位を占める。具体的な数字をみると、10代~20代はネット系メディアが合計156%なのに対し、伝統メディアは同42%にとどまる。30代はネット154%、伝統82%だった。一方、50代はネット83%・伝統157%、60代はネット69%・伝統198、70代はネット28%・伝統223%などと、若者世代と真逆の結果になっている。

ネットメディアと伝統メディアは伝える情報の内容は著しく異なる。つまり同じ日本に住みながら若者と中高年は、異なるメディアを通じて異なる「社会」を見ている可能性がある。これが日本社会の世代間の亀裂や分断を広げる材料になることが危惧される。

昨年7月の参院選では石破茂首相率いる自民党は大敗し、国民民主党や参政党の議席が大きく増えた。反対に今年2月の衆院選では高市早苗首相率いる自民党の議席を316と単独で三分の二を超える歴史的な大勝利を遂げた。二つの選挙のわずか半年余りの間に、自民党の「中身」が大きく変わったわけではない。

昨年10月、石破氏後継の自民党総裁に選ばれ、その後日本の憲政史上初の女性総理になった高市氏の人気を除けば、政治と金の問題を含めて何一つ大きく変わったものはない。すなわち衆院選の唯一かつ最大のテーマは、この高市人気に乗るか乗らないかだったと言って良い。

「SNS選挙」が内包する不安定でもろい構造

自分たちが日本の政治を動かせることを知ったSNS世代の若者の多くはこの高市人気に乗った。YouTuberたちは「切り抜き動画」を大量に配信して高市人気をはやし、自分たちのビジネスを十分に潤すことができた。「SSS選挙」は本質的に何も変わらないのに結果を大きく変えてしまう魔法のような働きを内包していると言える。

それは政治を移ろいやすく、不安定なものにしかねない。昨年の参院選の勝ち組だった国民民主党は今回の衆院選では伸び悩んだ。歴史的な大勝利を収めた自民党も、政党の実力を示すと言われる比例区の得票率(得票総数を有効投票総数で割ったもの)は、36.7%と有権者の3人に一人の支持にとどまり、「コスパの良すぎる選挙」だったことが分かる。

高市人気を唯一のテーマとした「SSS選挙」が生んだ316議席には意外にもろく、危うい内部構造が透けてみえる。もし、次の選挙で自民党に不利な「単一のテーマ」が浮上し、SNS世代の若者の高市人気に陰りが生じれば、今度は自民党が「大敗」するかもしれない。

憂うべきは、こうした若者を中心とした「SSS選挙」がこれからますます強まると考えられることだ。日本の人口の三分の一を占める65歳以上の高齢者はいずれ表舞台から去るだろう。SNS世代は今のように若者限定ではなく、日本人全てがSNS世代にかわる。その時、日本の政治と民主主義は現状をはるかに上回る不安定な姿に変わっているかもしれない。そうならないためにはどうすれば良いか、今から考える必要がある。

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この記事を書いた人

元全国紙記者。ワシントン支局時代の2001年9月11日、「同時多発テロ」に遭遇する。その後、アフガニスタン、イラクと続くアメリカのがむしゃらな戦争に今に至る「アメリカのダウントレンドの始まり」を感じた。

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